オンプレミスとは?
オンプレミスは企業のシステム環境構築において、長年にわたり主流となってきた方式です。その基本的な概念と特徴を理解することが、システム環境選択の第一歩となります。
オンプレミスの定義
オンプレミス(On-premises)とは、企業が自社内または自社で管理している施設内にサーバーやネットワーク機器などのハードウェア、ソフトウェアを設置し、情報システムを構築・運用する形態を指します。「オンプレ」と略されることもあります。
自社でシステム環境を完全に所有・管理することが最大の特徴です。物理的なサーバーを導入し、社内のネットワークを構築し、そこにデータベースやアプリケーションをインストールして運用します。
オンプレミスの語源は「on(上に)」と「premises(施設・建物)」を組み合わせた言葉で、「自社施設内に設置する」という意味合いから来ています。日本では2000年代から企業のシステム環境の標準的な形態として広く普及しました。
オンプレミスの主な特徴
オンプレミス環境には、以下のような主要な特徴があります。
- 物理的なハードウェアを自社で所有・管理する
- 初期投資(設備投資)が必要となる
- システムの運用・保守・管理を自社で行う責任がある
- データやシステムを自社内に置くことでセキュリティを独自にコントロールできる
- 自社のニーズに合わせたカスタマイズができる
- システムの拡張には追加の設備投資と時間が必要になる
オンプレミス環境では、システム全体のライフサイクル管理を自社で行う必要があるため、専門の技術者やIT部門の存在が不可欠です。また、サーバールームの空調管理や電源対策など、物理的な設備の管理も求められます。
オンプレミスとクラウドの違い
システム環境を選択する際に重要となるのが、オンプレミスとクラウドの違いを理解することです。両者には根本的な違いがあり、それぞれに適した用途があります。
システム環境の基本的な違い
オンプレミスとクラウドの最も基本的な違いは、システムの設置場所と管理責任の所在にあります。以下の表で両者の基本的な違いを比較します。
| 比較項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 設置場所 | 自社内または自社管理施設内 | サービス提供者のデータセンター |
| 所有形態 | 自社で機器を購入・所有 | サービスとして利用(所有せず) |
| 管理責任 | 自社責任 | 提供者とユーザーで責任分担 |
| 利用形態 | 導入したシステムを長期利用 | 必要に応じてサービスを利用 |
| アクセス方法 | 主に社内ネットワーク経由 | 主にインターネット経由 |
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オンプレミスでは、自社でインフラからアプリケーションまで全てを構築・管理する責任があります。一方、クラウドはサービスとしてのインフラやプラットフォームを利用するため、管理責任の一部がサービス提供者に移ります。
コスト構造の比較
オンプレミスとクラウドでは、コストの発生構造が大きく異なります。企業の財務計画に大きな影響を与えるため、十分な理解が必要です。
| コスト項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 初期投資 | 高額(サーバー、ネットワーク機器、ソフトウェアライセンス等) | 低額〜不要(初期設定費用のみ) |
| 会計上の扱い | 資本的支出(CapExCAPEX) | 運用的支出(OpExOPEX) |
| 維持・運用コスト | 電気代、空調費、保守費、人件費等が発生 | 利用料金に含まれることが一般的 |
| スケーリング時のコスト | 追加の設備投資が必要 | 利用料金の変動のみ |
| 予測可能性 | 予期せぬ障害対応や機器更新で変動 | 利用量に応じた料金で予測可能 |
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オンプレミスは、初期投資が大きく減価償却の対象となる設備投資が中心となります。一方、クラウドは月額や年額の利用料という運用コストが中心です。長期的なTCO(総所有コスト)の観点では、5年程度の期間で見ると、利用規模や用途によって両者の優位性が変わる場合があります。
運用管理の違い
システム環境の日常的な運用管理面でも、オンプレミスとクラウドには大きな違いがあります。
| 運用管理項目 | オンプレミス | クラウド |
|---|---|---|
| 保守・メンテナンス | 自社責任でハードウェア・ソフトウェアの保守 | 基盤部分は提供者が実施 |
| バージョンアップ | 計画的に自社で実施(工数・コスト発生) | 提供者が自動的に実施 |
| 監視体制 | 自社で24時間365日の監視体制構築が必要 | 基本的な監視は提供者が実施 |
| 障害対応 | 自社での対応が基本(保守契約による) | 基盤部分は提供者が対応 |
| セキュリティ対策 | 自社でのセキュリティポリシー策定と実装 | 基本的な対策は提供されるが、設定は自社責任 |
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オンプレミスでは、システム管理の専門知識を持った人材の確保が必須となります。一方、クラウドでは基盤部分の管理負担が軽減されるため、より業務アプリケーションの活用や新たなデジタル施策の検討に注力できるようになります。
オンプレミスのメリット
オンプレミス環境には、特定のビジネスニーズや要件に適した明確なメリットがあります。これらを理解することで、企業のシステム環境選択の判断材料となります。
セキュリティの対策
オンプレミス環境は、データを自社内で管理するため、物理的なアクセス制御やネットワーク分離を厳格に行える点が大きな特徴です。自社のセキュリティポリシーに完全に合致した対策を適用できるため、高度なセキュリティ要件を持つ金融機関や公共機関などで採用されてきました。また、第三者によるアクセスリスクを低減できるメリットもあります。
一方、近年、外部からの脅威は多様化・複雑化しており、1つの企業がこれらの脅威全てに対応し、最新のセキュリティ対策を独自に実施し続けることは非常に困難になっています。オンプレミス環境でセキュリティ対策を導入するには、専門知識を持った人材の確保や、導入・設定に時間がかかるという課題があります。
これに対し、クラウドサービス(特にIaaS/PaaS)は、クラウドプロバイダーが最新のセキュリティ対策メニューを提供している点が大きな強みです。利用者は、管理画面から必要なセキュリティ機能を比較的容易に有効化・無効化できます。これにより、常に最新の脅威に対応したセキュリティ環境を維持しやすくなります。ただし、クラウド環境におけるセキュリティはクラウドプロバイダーと利用者の双方に責任があるため、利用者側も適切な設定や管理を行う必要があります。
このように、オンプレミスとクラウドはそれぞれ異なるセキュリティ特性を持つため、企業の機密性要件や運用体制に応じて最適な選択をすることが重要です。
セキュリティ面での優位性
オンプレミス環境の最大のメリットの一つが、セキュリティ面での優位性です。
- データの物理的な管理:重要データを自社内に保管できるため、アクセス制御を厳格に行いやすい
- ネットワーク分離:インターネットと完全に分離した環境を構築できる
- セキュリティポリシーの完全適用:自社のセキュリティ要件に100%合致した対策を実施できる
- 監査対応:規制産業における監査要件に合わせた証跡管理が実施しやすい
- 第三者アクセスのリスク軽減:クラウド提供者側の管理者によるアクセスリスクがない
高度なセキュリティが求められる金融機関や公共機関では、オンプレミスのセキュリティ優位性が重要な選択理由となっています。特に、顧客の個人情報や機密情報を大量に扱う業種では、情報漏洩リスクの最小化が経営上の重要課題となるため、オンプレミスが選ばれることがあります。
カスタマイズの自由度
オンプレミス環境では、システムの細部まで自社のニーズに合わせてカスタマイズできる自由度があります。
- ハードウェア選択の自由:業務に最適なサーバースペックや構成を選択可能
- ソフトウェア環境の完全制御:OS、ミドルウェア、データベースなどを自由に選択・組み合わせ可能
- 独自要件への対応:業界特有の要件や社内ルールに合わせたシステム構築が可能
- レガシーシステムとの連携:既存の基幹システムと緊密に連携したシステム構築が可能
- パフォーマンスチューニング:特定業務に特化した性能最適化が実施可能
製造業や流通業など、独自の業務プロセスや基幹システムを持つ企業では、カスタマイズ性の高さがオンプレミスを選ぶ重要な理由となっています。特に、基幹系システムや生産管理システムなど、企業の中核を担うシステムでは、業務プロセスに合わせた細かなカスタマイズが必要になるケースが多くあります。
ネットワーク依存度の低さ
オンプレミス環境のもう一つの大きなメリットは、外部ネットワークへの依存度が低いことです。
- インターネット接続への低依存:回線障害があっても業務継続が可能
- 通信遅延の最小化:社内LANでの高速通信が実現可能
- 大容量データ処理の効率性:ネットワーク帯域を気にせず大量データを処理可能
- 通信コストの予測可能性:外部との通信量に左右されない安定したコスト構造
- 閉域環境での運用:外部接続を完全に遮断した環境構築が可能
工場や研究所など、インターネット接続が不安定な拠点や、大量のデータをリアルタイム処理する環境では、ネットワーク依存度の低さが重要な利点となります。また、決済システムなど、常時安定した応答性が求められるシステムでは、ネットワーク遅延のリスクを避けるためにオンプレミスが選ばれることがあります。
オンプレミスのデメリット
オンプレミスにはメリットがある一方で、いくつかの課題やデメリットも存在します。システム環境選択の際には、これらのデメリットも十分に考慮することが重要です。
初期投資と維持コストの負担
オンプレミス環境の最大のデメリットの一つが、高額な初期投資と継続的な維持コストです。
- 高額な初期設備投資:サーバー、ストレージ、ネットワーク機器などの購入費用
- ソフトウェアライセンス費用:OS、データベース、ミドルウェア等のライセンス費用
- 設置場所のコスト:サーバールームの確保、空調設備、無停電電源装置などの設備費用
- 運用コスト:電気代、冷却費用、保守契約費用などのランニングコスト
- IT人材の確保:システム管理者やエンジニアの人件費
- 更新投資:3〜5年ごとのハードウェア更新費用
これらのコストは企業の財務に大きな影響を与え、特に中小企業にとっては大きな負担となります。初期導入時には数百万円から数千万円の投資が必要となり、その後も定期的な更新投資が発生します。また、これらの設備投資は減価償却の対象となるため、会計処理も複雑になる傾向があります。
スケーラビリティの制約
オンプレミス環境では、システムの拡張性(スケーラビリティ)に制約があることが大きなデメリットです。
- リソース拡張の遅延:需要増加に対して迅速な拡張が困難
- 計画的な容量設計の必要性:将来の需要を見越した過剰投資が発生
- 物理的な制約:設置スペース、電源容量、冷却能力などの制約
- 拡張時の追加投資:キャパシティ拡大には追加の設備投資が必要
- 縮小の非効率性:需要減少時にリソースを縮小しても投資回収が困難
ビジネスの急成長や季節変動が大きい業態では、この柔軟性の欠如が事業機会の損失につながる可能性があります。例えば、ECサイトの急なアクセス増加やキャンペーン時の一時的な負荷増大に対応するためには、通常時の何倍もの処理能力を持つシステムを常時用意しておく必要があり、リソースの無駄が生じます。
災害対策とBCPの課題
オンプレミス環境では、災害対策と事業継続計画(BCP)の実現が技術的にも費用的にも大きな課題となります。
- 単一拠点のリスク:自然災害による物理的なシステム喪失リスク
- 冗長構成の高コスト:地理的に分散したバックアップサイトの構築・維持コスト
- 復旧の複雑さ:災害後の復旧プロセスが複雑で時間がかかる
- テスト実施の困難さ:実環境でのBCP訓練実施が困難
- 運用負荷:定期的なバックアップと検証の運用負荷
真に堅牢な災害対策を実現するためには、遠隔地にバックアップセンターを設置するなど、多額の追加投資が必要となります。これにより、中小企業ではコスト面から十分な対策が実施できないケースも少なくありません。近年の自然災害の増加や事業継続への意識の高まりから、この点がオンプレミスの大きな課題として認識されています。
企業に最適なシステム環境の選択
オンプレミスとクラウドのメリット・デメリットを理解した上で、企業の状況に応じた最適なシステム環境を選択することが重要です。一概にどちらが優れているとは言えず、企業の特性や要件に基づいた判断が必要です。
業種・規模別の最適な選択基準
業種や企業規模によって、最適なシステム環境は異なります。以下に、業種・規模別の選択基準の目安を示します。
| 業種/規模 | 推奨環境 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 金融機関 | オンプレミス/ハイブリッド | 高いセキュリティ要件、厳格な監査対応 |
| 製造業(大企業) | ハイブリッド | 基幹系はオンプレミス、情報系はクラウドなど用途別に最適化 |
| 小売・流通業 | クラウド/ハイブリッド | 季節変動への対応、複数拠点展開の容易さ |
| ITサービス業 | クラウド中心 | 技術革新への迅速な対応、開発環境の柔軟性 |
| 中小企業(一般) | クラウド中心 | 初期投資の抑制、IT人材確保の課題解消 |
| 公共機関 | オンプレミス/ハイブリッド | 情報セキュリティポリシー、長期運用の安定性 |
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特定の業務領域に関しては、規制要件やデータ特性に応じて最適な環境を個別に判断することが重要です。顧客の個人情報を大量に扱うシステムはオンプレミス、社内の情報共有システムはクラウドというように使い分けるケースが増えています。
ハイブリッド環境の活用方法
近年、オンプレミスとクラウドの両方のメリットを活かすハイブリッド環境の採用が増えています。
- 用途別の最適化:基幹系システムはオンプレミス、情報系システムはクラウドなど
- 段階的移行:既存のオンプレミスシステムを維持しながら、新規システムをクラウドで構築
- ピーク対応:通常時はオンプレミス、負荷増大時はクラウドでリソースを追加(クラウドバースティング)
- データの適材適所:機密性の高いデータはオンプレミス、一般データはクラウドに配置
- 接続方式:閉域網(専用線)やVPNなどの安全なネットワーク接続方式を用いることで、オンプレミスとクラウド環境間のセキュアな連携が可能
- BCP対策:オンプレミスの災害対策としてクラウドをバックアップ先に活用
ハイブリッド環境を成功させるためには、両環境間の連携技術やセキュリティ設計が重要になります。特に、認証連携(シングルサインオン)やネットワーク接続(閉域網接続など)、データ同期の仕組みなどが技術的なポイントとなります。また、両環境を統合的に管理するためのツールや運用プロセスの整備も必要です。
オンプレミスからクラウドへの移行検討
従来、オンプレミスの方がセキュリティに優れていると考えられがちでしたが、現在のクラウドサービスでは「責任共有モデル」という考え方の下で、クラウドプロバイダーが基盤部分のセキュリティを、利用者がアプリケーションやデータのセキュリティをそれぞれ担当することで、これらが適切に運用された場合には個別企業が単独で実現できるセキュリティレベルを満たすことができます。
特に、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度) に登録されたクラウドサービスは、政府機関でも利用可能な高いセキュリティ基準を満たしています。
また総務省の調査によると、国内企業におけるクラウドサービスの利用は年々増加しており、2023年には約8割の企業がクラウドサービスを導入しています。また、日本のパブリッククラウドサービス市場は2023年に3兆円を超える規模まで成長(前年比25.8%増) しており、多くの企業でクラウド移行の検討が活発化していることを示しています。
既存のオンプレミス環境からクラウドへの移行を検討する際には、以下のポイントを考慮することが重要です。
- 移行の適性評価:既存システムのクラウド適性を技術面・運用面から評価
- コスト比較:5年程度の長期TCO(総所有コスト)で比較
- リスク分析:移行に伴うダウンタイム、データ損失リスク、契約リスクなどの評価
- 移行計画:段階的移行か一括移行(ビッグバン移行)か、移行手法の選択
- クラウドサービス選定:IaaS/PaaS/SaaS など、最適なサービスレベルの選択
- セキュリティ設計:クラウド環境におけるセキュリティ対策の再設計
- 運用体制の見直し:クラウド管理に適した運用プロセスと体制の構築
システムの更新タイミングが移行の絶好の機会となります。ハードウェアの更新が必要な時期に、オンプレミスでの更新投資とクラウド移行のコストを比較検討することで、長期的な視点での判断が可能になります。また、新たな業務要件やデジタルトランスフォーメーションの一環として移行を位置づけることで、単なるインフラ更新以上の価値を創出できる可能性があります。
まとめ
オンプレミスとは、自社内または自社管理施設内にサーバーやネットワーク機器などを設置し、情報システムを構築・運用する形態です。クラウドと比較して、セキュリティの優位性、カスタマイズの自由度、ネットワーク依存度の低さなどのメリットがある一方で、初期投資と維持コストの負担、スケーラビリティの制約、災害対策の課題などのデメリットも存在します。
企業にとって最適なシステム環境は、業種や企業規模、取り扱うデータの特性、業務要件などによって異なります。多くの企業では、オンプレミスとクラウドの両方のメリットを活かすハイブリッド環境を採用する傾向が強まっています。システム環境の選択に際しては、単に技術的な側面だけでなく、長期的なコスト、運用負荷、セキュリティ要件、将来の拡張性などを総合的に考慮した判断が重要です。
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