SD-WANとは
SD-WAN(Software Defined-Wide Area Network)は、物理的なネットワーク機器で構築したWANの上に、ソフトウェアを用いて仮想的なWANを構築・管理する技術です。ソフトウェアによって柔軟にネットワークを一元管理できるため、クラウドサービスの利用や拠点間の接続を最適化することが可能です。
SD-WANの仕組み
SD-WANは、ソフトウェアによってWAN(広域ネットワーク)の管理を効率化する技術です。
SD-WANは各拠点で利用されているインターネット回線、モバイル回線、専用線などの様々な物理回線をソフトウェアで可視化し、一括管理することができます。これらの回線を1つのネットワークとして扱い、複数の通信経路を動的に最適化することで、ネットワークトラフィックを効率的に分散させ、通信パフォーマンスの向上とコスト削減を実現できます。
Open Networking USER GROUP(ONUG)は2014年に、SD-WANに求められる10の要件を次のように定義しました。
- アクティブ/アクティブ構成の様々な回線・WANを制御可能
- コモディティHW上で仮想的にCPEを提供
- アプリケーション等のポリシーに基づいて動的なトラフィック制御
- 個別のアプリケーションに対して可視化・優先度付け・制御
- 可用性や柔軟性が高いハイブリットWAN
- 既存のスイッチやルーターとの間でL2/L3で直接相互接続
- 拠点、アプリケーション、VPN品質などをダッシュボードで可視化
- オープンなノースバウンドAPI経由でコントローラーにアクセス
- ゼロタッチプロビジョニング対応
- NIST FIPS-140-2 セキュリティ規格を取得
2019年には「SD-WAN 2.0」として以下の5つの要件が追加されました。
- 拠点からのSaaS/IaaSへの直接アクセス
- マルチクラウドへのシームレスな接続
- 拠点とクラウドのセキュリティ対策
- SD-WANとクラウド間でのAPI連携
- モバイルユーザー向けSD-WANクライアントの提供
SD-WANが求められる背景
従来のWANはハードウェアに依存しており、その設定・管理やネットワークの拡張、さらに障害発生時の対応にはかなりのリソースが必要でした。そんな中SD-WANが求められるようになってきた背景には、主にクラウドサービスの利用増加によって次の3つの変化が発生したことが挙げられます。
SaaSの利用増加による通信負荷の増大
企業でクラウドサービスの活用が進むにつれ、大量のトラフィックが発生し通信環境への負担が急増しています。
例えば、Microsoft 365やGoogle Workspaceのような業務用SaaSは、一人あたり40~50セッションが推奨されています。さらにWeb会議サービスなど併用することを想定すると、100セッションほど必要になります。
従来は数セッション程度のインターネット利用で済む場合が多かった環境でも、インターネットの使用が当たり前になったことから、必要なセッション数が大幅に増加しているのです。
大量に通信が発生する状況下では、センター拠点におけるボトルネックの発生により通信速度が低下し、業務効率が著しく低下する可能性が高まります。
事業継続性の確保
クラウド技術への依存度が高まるにしたがって、インターネットの停止が業務全体の停止に直結します。
メールや顧客管理システム、在庫管理など、あらゆる業務がクラウド上で動作する状況では、通信障害が直接的な事業リスクを引き起こすのです。
こうした状況に対応するには、障害発生時にすぐ予備の通信経路へ切り替えるなど、サービスを継続できる柔軟な環境を構築することが重要です。負荷分散機能や複数の回線を用いて、トラフィックを効率的に分散させ、ネットワークの冗長性を高める取り組みが求められます。
WAN運用コストと管理負担の増大
SaaSの利用拡大に伴い、WANのトラフィック量は年々増加の一途をたどっています。
この需要に対応するには、企業が所有するネットワーク機器や設備に投資を続け、増強し続けることが必要です。さらにこれらに伴い、機器の管理や監視、設定変更などの運用業務も増加するため、人的リソースの負担も大きくなります。
情報システム部門の人員不足が深刻化している昨今において、このような従来型のWAN運用モデルを維持することは、企業にとって大きな課題となっています。
SD-WANを構築するメリット
SD-WANを構築するメリットは、主に次の3つがあります。
ローカルブレイクアウトを使って負荷分散をはかれる
SD-WANはローカルブレイクアウト機能を有しており、各拠点が特定の通信においてインターネットへ直接接続することで、センター拠点へのトラフィック集中を回避できます。
暗号化された通信を利用するSaaSサービスは、センター拠点を経由せず、各拠点から直接アクセスが可能であることから、重要なアプリケーションやクラウドサービスへの接続がスムーズになります。
ネットワークの帯域を有効活用できる
SD-WANはリアルタイムでネットワーク状況を監視し、トラフィックを動的に最適な経路にルーティングします。そのため、ネットワークの帯域を最大限に活用し、安定した通信環境を維持できます。
従来の固定的な接続経路では発生しやすかった帯域の無駄を解消し、重要なデータやアプリケーションに優先的にリソースを割り当てることで、効率的な運用が可能となります。
高度な冗長性を確保できる
前述のように、SD-WANは複数の通信経路を柔軟に活用することで、自動的にトラフィックを切り替えて、ネットワークの信頼性を向上させる技術です。
そのため、障害が発生した際には他の経路に即座に切り替わり、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。
この仕組みは、BCP(事業継続計画)対策を行う上でも非常に効果的です。特に、クラウド依存が強まる現代のネットワーク環境では、高度な冗長性を実現できるSD-WANが企業の強力な基盤となります。
コストカットにつながる
SD-WANを導入することで、従来必要だった複雑なネットワーク構成を簡略化し、コスト削減が期待できます。例えば、専用線やバックアップ用回線を統合すると、運用コストの削減につながります。
ただし、コスト削減の効果は、現在のネットワーク構成や運用状況に依存します。特に、複雑な環境を持つ企業では高い効果を発揮しやすいでしょう。事前の詳細な導入計画が、コストメリットを最大化する鍵となります。
SD-WANの導入に向いている企業
SD-WANの導入に向いているのは、SaaSやPaaSを利用している企業や、多拠点でセンター抜けを利用している企業、モバイル閉域を活用している企業などです。ここでは、SD-WAN導入により高い効果が期待できる企業の特徴を解説します。
SaaSやPaaSを利用している
クラウドベースのSaaSやPaaSを積極的に活用している企業は、SD-WANの導入によって大きなメリットを得られる可能性が高いです。
SD-WANは、クラウドアプリケーションへの接続を最適化し、通信遅延や切断を最小限に抑える機能を備えています。また、動的なルーティング機能により、重要なアプリケーションに必要な帯域を優先的に割り当てることも可能です。
これらの機能を効果的に活用することで、クラウドサービスの利用効率が改善され、業務の生産性向上も期待できます。
複数拠点を有しており、センター抜けの構成になっている
複数の拠点を持つ企業では、従来のセンター抜け方式によってトラフィックが一箇所に集中し、ボトルネックが発生するケースがよくあります。
SD-WANを導入することで、特定のセキュリティ性が高い通信先に関しては各拠点が直接インターネットに接続できる仕組みを構築でき、効率的なトラフィック管理が可能です。
センター拠点の負荷を軽減できれば、全社的なネットワークパフォーマンスの向上が期待できます。また、リモート拠点でも安定した通信環境を維持できるため、業務効率を高められる可能性があります。
モバイル閉域を活用している
モバイル通信を利用して閉域網を構築している企業も、SD-WANを導入することでネットワーク管理の効率化を実現できます。
SD-WANの動的なルーティング機能により、複数の通信回線をシームレスに切り替え、モバイルデバイスに最適な接続環境を動的に提供することが可能です。
また、暗号化やセキュリティポリシーの適用が容易になるため、セキュリティを確保しながら信頼性の高いネットワークを運用できるようになるのもポイントです。
SD-WANを構築する際に注意したいポイント
SD-WANを構築する際は、ネットワーク要件の明確化や統合的なセキュリティ対策、シンプルで効率的な運用体制の確立が重要になります。ここでは、SD-WANを導入する際に注意したい3つのポイントを解説します。
ネットワーク要件を明確化する
SD-WANの構築を成功させるためには、自社のネットワーク要件を詳細に把握する必要があります。
各拠点の帯域の需要を調査したり、優先すべきアプリケーションの特定を行ったりすることで、より効率的なルーティングや帯域管理が可能になります。
社内で利用しているクラウドアプリケーションや動画会議ツールなど、トラフィックが集中しそうな部分をあらかじめ予測し、それらを考慮したSD-WANの設計を行うことが重要です。
ネットワーク全体の使用状況を分析し、最適な構成を計画できれば、パフォーマンスとコスト効率を両立した運用を実現できます。
統合的なセキュリティ対策を行う
SD-WANの導入では、ネットワークの最適化と同時にセキュリティ対策も欠かせません。暗号化やファイアウォール機能を統合した形で実装することにより、セキュアなインターネット接続を維持できます。
特に、ローカルブレイクアウトを採用する場合は、各拠点がセキュリティホールとなるリスクがあるため、統合型のセキュリティ機能やクラウドベースのセキュリティサービスの導入を検討する必要があります。
また、必要に応じてゼロトラストセキュリティモデルを採用すると、より高い防御力を持つネットワーク環境を構築できます。セキュリティとネットワークパフォーマンスをバランスよく管理することが、安定した運用を支えるためのポイントです。
関連記事:ゼロトラストとは?従来モデルを超える最新のセキュリティ対策を解説
シンプルかつ効率的な運用・管理体制を意識する
SD-WANは柔軟性が高い反面、適切な運用管理を行わないと複雑化するリスクがあります。運用体制の複雑化を防ぐためには、ネットワーク管理を一元化できるダッシュボードや監視ツールを活用する取り組みが効果的です。
リアルタイムでトラフィック状況や障害を監視できる環境を整えれば、トラブルが発生した際に迅速な対応が可能になります。
また、運用管理を簡略化することで、ネットワーク管理者の負担を軽減し、全体的な効率も向上します。シンプルで透明性の高い管理体制の確立が、長期の安定した運用を下支えします。
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まとめ
SD-WANは、ネットワークの柔軟性と効率性を向上させるだけでなく、セキュリティやコスト削減、運用の効率化にも寄与する技術です。クラウドサービスの普及や多拠点展開、モバイル通信の増加により、企業にとってSD-WANの導入は重要性を増しています。
SD-WANの導入を成功させるためには、ネットワーク要件の明確化や統合的なセキュリティ対策、シンプルな運用体制の構築が欠かせません。計画的な準備と適切な管理を行うことで、SD-WANは安定した通信環境と事業継続性を支える強力な基盤となります。
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