ローカルブレイクアウト(LBO)とは
ローカルブレイクアウト(LBO)は、拠点から特定の通信を直接インターネットへ接続するネットワーク構成のひとつです。従来のすべてデータセンターを経由させる構成とは異なり、拠点から直接SaaSやクラウドアプリケーションにアクセスできるため、センター拠点へのトラフィック集中を回避できます。
ローカルブレイクアウトの活用により、通信の遅延を最小限に抑えつつ、全体的なネットワーク負荷を軽減することが可能です。また、重要なアプリケーションへのスムーズな接続が実現し、業務効率やユーザー体験の向上につながります。
ゼロトラストの考え方については下記の記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
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従来のネットワーク構成との違い
従来のネットワーク構成では、全てのトラフィックが本社やデータセンターを経由する仕組みが一般的でした。この方式は統一的なセキュリティ対策とデータ管理を可能にする一方で、トラフィック集中による回線負荷の増加や通信速度の低下といった課題が生じていました。
一方、ローカルブレイクアウト(LBO)は、信頼できる通信先を判別したうえで、各拠点から直接インターネットに接続できる仕組みを採用しています。このアプローチはデータセンターを経由しないため、トラフィックの負荷が分散され、クラウドアプリケーションやSaaSへのアクセス速度の向上が期待できます。
ローカルブレイクアウトが求められる背景
従来の企業内ネットワークは、本社・データセンター内の基幹システムやファイルサーバへのアクセスが主な目的として設計されており、クラウドやインターネットへの接続は副次的な役割に過ぎませんでした。
しかし、クラウドアプリケーションやSaaSの利用拡大により、インターネット向けトラフィックが急増し、従来のネットワーク構成では対応が難しくなっているのが現状です。特に、ファイアウォールやプロキシサーバーにかかる負荷が増加し、通信速度の低下が業務効率を阻害するケースが増えています。
ローカルブレイクアウトを利用することで、特定の通信を拠点から直接インターネットに接続してトラフィックを分散し、従来のインフラの負荷を軽減できるため、企業の通信量が増え続ける現在、有効な手段として注目されています。ローカルブレイクアウトの採用により、クラウド活用の促進と業務の効率化が期待できます。
ローカルブレイクアウトの仕組み
ローカルブレイクアウト(LBO)では、各拠点に配置されたエッジ装置(ルーターやSD-WANデバイスなど)がトラフィック内容をリアルタイムで識別し、自動的に接続先を振り分けます。
具体的には、業務に必要なデータ通信が社内VPNを通じて本社やデータセンターに送られるべきか、もしくは直接インターネット回線に接続すべきかを判断します。
例えば、SaaSアプリケーションやクラウドサービスへのアクセスはインターネット回線に直結し、それ以外の重要な内部システムへの通信はVPNを利用する、といったような設定を行うことが可能です。この振り分けにより、プロキシサーバーやセンター回線の負荷を軽減し、全体的なネットワーク効率が向上します。
ローカルブレイクアウトを導入するメリット
ローカルブレイクアウトを導入するメリットには、次のようなものがあります。
通信コストの削減
従来の通信方法では、拠点からの通信がすべてデータセンターを経由するため、帯域の拡張や機器の追加が必要になり、通信量が増加する傾向がある企業では、設備投資の負担が増加し続けやすい傾向にあります。
ローカルブレイクアウトを導入することで、特定の通信を拠点から直接インターネットに接続できる仕組みが整うため、データセンターの負荷が軽減され、運用コストの増加を抑えられる可能性が高まります。
安定した通信環境の実現
データセンター集約型の構成では、トラフィックが全てデータセンターを通過するため、一か所に負荷が集中しやすく遅延が発生しやすくなります。
ローカルブレイクアウトを導入すれば、インターネットに直接的に接続できるため快適な通信を維持しやすく、例えばWeb会議やオンラインの共同作業、ファイル共有など、リアルタイム性が求められる業務において、快適な通信環境を確保しやすくなります。また、通信遅延の解消により、業務の効率性が向上し、従業員の生産性の改善にも寄与します。
ローカルブレイクアウトの導入に向いている企業
ローカルブレイクアウト(LBO)は、ネットワークの効率化やコスト削減を目的とした構成であり、特に以下のような企業に適しています。
クラウドサービス利用が多い
クラウドベースのSaaSアプリケーションを多用している企業では、ローカルブレイクアウトの利用で拠点から特定のクラウドサービスに直接アクセスが可能になります。
これにより、データセンターを経由するトラフィックが減少するため、ネットワーク全体のパフォーマンスが最適化されます。また、セキュリティポリシーを適用することで、通信の安全性も確保できます。
拠点が全国に存在している
複数の拠点を持つ企業では、データセンターを経由する集約型のネットワーク構成が通信速度の遅延を招きがちです。
ローカルブレイクアウトを導入することで、各拠点から直接インターネットやクラウドサービスにアクセスできるようになり、トラフィックの分散が可能になります。
ネットワークの負荷軽減を図りたい企業
従来のデータセンター集約型のネットワークでは、トラフィック増加に伴って度重なる回線増強が必要になり、運用コストが嵩む傾向にあります。
ローカルブレイクアウトの採用により、データセンターを経由するトラフィックの負荷を大幅に削減することが可能です。結果として、帯域増強の必要がなくなり、コスト削減とネットワークの安定化が期待できます。
クラウド活用を加速させたい企業や、分散型拠点を効率的に管理したい企業にとって、ローカルブレイクアウトの導入は効果的なネットワーク戦略と言えるでしょう。
ローカルブレイクアウト導入時の注意点
ローカルブレイクアウトは、ネットワーク効率を向上させる一方で、いくつかの課題やセキュリティリスクを伴う場合があります。以下のポイントを考慮し、導入を成功させるための準備を整えることが重要です。
セキュリティ対策の強化
ローカルブレイクアウトを導入すると、各拠点から直接インターネットへ接続する機会が増えるため、データセンター経由で統一的に提供されていたセキュリティ保護が分散される可能性があります。
そのため、拠点ごとにファイアウォールや侵入防止システム(IPS)を設置し、通信内容を監視できる体制を構築する必要が生じます。
また、セキュリティポリシーを拠点ごとに策定し、運用ルールの統一を図って、不正アクセスや情報漏洩を防ぐ取り組みが求められます。
さらに全拠点で統一的なセキュリティレベルを実現するために、ゼロトラストネットワークモデルを採用することも効果的です。「すべての通信を信頼しない」という考え方をベースにセキュリティ対策を講じることで、ローカルブレイクアウトの利便性を享受しながらも、通信の安全性を確保できます。
ネットワークの可視化と管理
ローカルブレイクアウトの導入後は、拠点から直接インターネットにトラフィックが流れるため、全体の通信状況を把握するのが難しくなる場合があります。
この課題を解決するためには、ネットワーク監視ツールなどを利用して、トラフィックをリアルタイムで可視化する仕組みを整えることが重要です。異常検知機能やログ分析機能が搭載されたツールを活用すると、通信状況の把握が容易になり、問題の早期発見につながります。
また、監視業務を一元化するために、専用のダッシュボードやアラート機能を導入すると、より効率的な運用が可能です。社内全体のトラフィック管理を強化することで、ローカルブレイクアウトの導入効果を最大化できます。
接続先サービスの選別とアクセス制限
ローカルブレイクアウトでは、どのクラウドサービスやWebアプリケーションに直接接続を許可するかを慎重に選ぶ必要があります。信頼性の高いサービスや、業務で使用するアプリケーションに限定して直接接続を設定することで、セキュリティリスクを最小限に抑えられます。
また、重要度の低い通信や未知のサービスへの接続はデータセンター経由の通信を選択することで、通信管理が容易になります。
さらに、接続制限を適切に設定するためには、プロキシサーバーやアクセス制御リスト(ACL)を利用し、利用状況を定期的に監査するのも効果的です。接続先を明確に選定し、適切な制限を設けることで、安全で効率的な運用を実現できます。
ローカルブレイクアウトの安全な運用方法
ローカルブレイクアウトを安全に運用するためには、信頼性の高い通信先に限定してアクセスを許可する仕組みづくりが重要です。
業務で利用するSaaSやクラウドサービスに対してのみ直接接続を行い、その他の通信は従来通りデータセンターを経由させることで、セキュリティリスクを軽減できます。
また、クラウドプロキシを利用することで、各拠点のトラフィックを一元的に監視し、不正アクセスやデータ漏洩のリスクを低減する仕組みを整備する取り組みも有効です。
さらに、SASE(Secure Access Service Edge)フレームワークを導入することで、クラウド上での統一されたセキュリティ管理が可能となり、拠点間の運用負荷を軽減しながら高度なセキュリティを維持できます。
SASEについては下記の記事でも詳しく解説しています。効率的なセキュリティ管理を目指す方はぜひこちらもご覧ください。
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SD-WANを活用したローカルブレイクアウトの実現
SD-WAN(Software-Defined Wide Area Network)は、ソフトウェアを活用してWANの管理を効率化する技術で、ローカルブレイクアウトを効果的に実現する手段として注目されています。
従来のWAN構成では、固定された接続経路を使用するためトラフィックが集中しやすく、遅延やコスト増が課題となっていました。一方、SD-WANは複数の接続経路を動的に最適化することで、必要に応じてトラフィックをクラウドやインターネットへ効率的に振り分けられます。
この機能により、ローカルブレイクアウトの導入時に懸念されるセキュリティやパフォーマンスの課題をクリアすることができます。
さらに、セキュアな通信プロトコルを活用することで、リモートオフィスや分散拠点間でも一貫したネットワークパフォーマンスが提供可能になる点もメリットです。
ローカルブレイクアウトの具体的な構成例
ここからは、ローカルブレイクアウトにおける具体的な構成例を2つ紹介します。実際にローカルブレイクアウトの導入を検討する際は、ぜひ参考にしてください。
パターンA:他拠点 LAN 側ゲートウェイ+ローカルブレイクアウト
パターンAの構成では、各拠点がLAN側ゲートウェイを通じてローカルブレイクアウトを実現する仕組みを採用します。
この仕組みでは、各拠点に配置されたUTMなどのセキュリティデバイスがインターネットへの接続を監視しつつ、業務で使用するクラウドサービス(Google Workspace、Microsoft 365、Zoomなど)に直接アクセスする構成が特徴です。
具体的には、以下の流れで通信を処理します。
- 各拠点(拠点A、拠点B、拠点C)のトラフィックが、ローカルのLAN側ゲートウェイを経由して、インターネットまたは指定されたクラウドサービスへ接続される。
- セキュリティデバイス(UTM)が外部接続のセキュリティを確保し、不正な通信をブロック。これにより、各拠点ごとに安全な通信環境が提供される。
- トラフィックの一部は、セキュリティや運用要件に応じて中央管理型のネットワークへ戻る場合もあるが、特定のクラウドサービスへの接続は直接インターネット経由で行われるため、トラフィックの効率が大幅に向上する。
この構成は、拠点ごとに独立したセキュリティ対策を実現しつつ、データセンター経由の通信負荷を軽減する点で効果的です。また、各拠点での管理が可能なため、ネットワーク全体の柔軟性が向上するメリットもあります。
パターンB:マネージドクラウドゲートウェイ+ローカルブレイクアウト
パターンBの構成では、各拠点がマネージドクラウドゲートウェイを介してローカルブレイクアウトを実現する仕組みを採用します。このアプローチは、クラウド上に設置されたゲートウェイを活用し、通信を効率化しながらセキュリティを確保する点が特徴です。
具体的な通信フローは以下の通りです。
- 各拠点(拠点A、拠点B、拠点C)のトラフィックは、まずマネージドクラウドゲートウェイに送信される。このゲートウェイはクラウド上で管理され、トラフィックを適切に振り分ける役割を果たす。
- ゲートウェイは必要に応じてトラフィックをUTM(統合脅威管理)へルーティングし、外部接続の安全性を確保する。UTMはマネージドサービスとして提供されるため、各拠点でのセキュリティ負担が軽減される。
- Google Workspace、Microsoft 365、Zoomなどの特定のクラウドサービスへのトラフィックは、直接インターネットへ接続するよう最適化される。これにより、通信の遅延が最小限に抑えられる。
この構成では、通信経路をマネージドクラウドゲートウェイが一元管理するため、全体のネットワーク可視性が向上し、運用の効率化を図れます。
また、UTMをクラウド上で管理することで、セキュリティ体制を強化しつつ、拠点ごとの管理負担を削減できる点もメリットです。特に複数拠点を持つ企業において、高速で安全なローカルブレイクアウトを実現する手段として有効です。
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まとめ
ローカルブレイクアウトは、拠点から直接インターネットへ接続することで、ネットワーク効率を向上させる仕組みです。ローカルブレイクアウトの導入により、通信遅延やコストの削減が可能になり、業務効率が向上します。
ローカルブレイクアウトを安全に運用するためには、セキュリティ対策の強化やネットワークの可視化、接続先の適切な制限が不可欠です。状況に応じて自社に合った構成を選択することで、柔軟かつ安全なネットワーク運用を実現しましょう。
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