AIを活用した予知保全とは
そもそも予知保全とは、生産現場の設備や機器にトラブルが発生する前に対処する保全方法のことを言います。設備や機器の状態を監視することで、故障や不具合の兆しを検知できるため、早めの対処が可能です。
予知保全にAIを活用する場合、設備や機器の監視からデータ解析までの業務をAIに任せることができます。センサーで設備や機器の状態をリアルタイムに監視したり、得られたデータから故障予測や最適化の提案を行ったりすることが可能です。AIを活用した予知保全には、機械学習・深層学習・画像処理・音響解析・振動解析などの技術が使われます。
AIを活用した予知保全にはさまざまなメリットがあり、AIを活用した予知保全を導入する企業は増えています。経済産業省は「AI導入ガイドブック」の中で「経済的インパクトがあるAI導入領域」の上位5つの内1つに予知保全を挙げており、今後も増えていくことが予想されるのではないでしょうか。
なおAIによる故障予測に関しては、下記の記事で詳しく解説しているのであわせてご一読ください。
予知保全にAIを活用する3つのメリット
予知保全にAIを活用するメリットは下記の3つです。
- 【メリット1】故障・不具合の発見精度が安定する
- 【メリット2】ダウンタイム(稼働停止時間)を抑えられる
- 【メリット3】人材不足への対応・人件費削減に役立つ
品質や生産性の安定、保全業務の属人化解消につながることが期待されます。ひとつずつ確認していきましょう。
【メリット1】故障・不具合の発見精度が安定する
予知保全にAIを活用すると、故障・不具合の発見精度が安定します。
担当者がひとつずつ目視で確認すると、どうしても見落としが発生してしまいます。また、担当者の経験・技量次第で精度にばらつきが出ることもあるでしょう。
しかしAIを活用した予知保全の場合、IoT機器から取得したデータを元にAIが分析・判断します。そのためある一定以上の精度が出やすくなり安定します。
故障・不具合の予兆を正確に認識できれば、不具合が起こり得る設備や機器で生産することもなくなり、製品の品質も安定するでしょう。
【メリット2】ダウンタイム(稼働停止時間)を抑えられる
設備や機器のダウンタイム(稼働停止時間)を抑えられることも、予知保全にAIを活用するメリットです。
担当者が目視で確認している場合、故障や不具合の兆しに気付かないこともあるでしょう。その結果、設備や機器にトラブルが発生してから対処しなければならないケースも出てきます。
事後対応になれば、原因究明や修理対応などが終了するまでダウンタイムが発生してしまい、生産計画が遅延することも考えられます。故障が深刻だったり、故障の原因特定に時間がかかったりした場合は、納期遅延につながるおそれも否定できません。
その点AIなら、対象の設備や機器を常時監視できるだけでなく、故障や不具合の兆しを高精度で発見することが可能です。
トラブルが発生する前の段階であれば、生産計画にあわせた保全業務を行いやすくなるため、ダウンタイムを最小限に抑えられます。結果的に、生産活動も安定するでしょう。
【メリット3】人材不足への対応・人件費削減に役立つ
予知保全にAIを活用することは、人材不足への対応や人件費削減にも役立ちます。
人材不足は業界を問わず多くの企業が抱えている課題ですが、中でも製造業における人材不足は深刻です。
予知保全を今までのように人が行う場合、人的コストが追加でかかります。また予知保全を人が行うには、監視・計測・分析などの熟練した技術が必要です。特定の担当者に業務が集中し、保全業務が属人化してしまうリスクもあります。
予知保全をAIに任せられると、熟練の担当者に劣らないレベルでの業務が可能になるため、人材不足や属人化解消につながります。
保全業務を担当できる従業員がそろっている企業でも、AIを活用することで保全業務の担当者を他の業務に回すことができます。保全業務のための教育コスト削減にも役立つでしょう。
予知保全にAIを活用する2つのデメリット
予知保全にAIを活用するデメリットは下記の2つです。
- 【デメリット1】導入コストがかかる
- 【デメリット2】精度が完璧なわけではない
期待した効果を得るためにも、デメリットについて正しく理解しておきましょう。
【デメリット1】導入コストがかかる
AIを活用した予知保全には、ソフトウェア・ハードウェアの導入コストが必要です。
導入コストは、監視対象の設備・機器の数やセンサーの種類、システムの規模などによって異なりますが、膨大な学習データを処理するには高い性能が必要なため、金額も相応になると認識しておきましょう。
AIの導入方法としては、自社開発やクラウドサービス、市販されているアプリケーションの利用などがあります。
社内に開発できる人材がいない場合は、クラウドサービスか市販のアプリケーションを利用することになります。この場合、利用内容に応じたサービス利用料、もしくはアプリケーションやソフトウェアの購入費用が必要です。
ただし、予知保全システム導入後には、交換部品費用や人件費などのコストを削減できたり、生産性が安定することによる売上アップが期待できたりなど、長期的にはコストの回収が見込めます。
短期的な導入費用だけでなく長期的な費用対効果を考慮し、導入をご検討ください。
【デメリット2】精度が完璧なわけではない
AIによる予知保全は、故障や不具合の兆しを完璧に検知できるわけではありません。特に、予知保全システム構築のためのデータ不足、故障につながるデータ不足など学習データが不足している段階では、故障や不具合の兆しを高精度で検知することは困難です。
異常検知や故障予測などは発生頻度が低く、十分なデータがそろわない場合があるため、検知精度が向上するのに時間がかかることもあります。
データ不足時の対策のひとつが、「教師なし学習」によるAI予知です。教師なし学習とは、正解となるデータを与えず、入力したデータの構造や特徴から正解を導き出す手法です。ただし教師なし学習も、データがそろっている場合に比べると、精度は低くなってしまいます。
以上のことを踏まえ、予知保全をはじめる場合は小規模からスタートすることをおすすめします。規模が小さいほど必要なデータ量や学習期間を減らせるため、早期に精度の向上を実現できるでしょう。
AIを活用した予知保全の事例
AIを活用した予知保全の具体例として、「サトーホールディングス株式会社」様がAIによる予測分析ツール「Prediction One」を導入した事例を紹介します。
サトーホールディングス株式会社様は、保守における障害の分類工程にPrediction Oneを導入しており、毎月150〜200件の障害を分類しています。導入以前は従業員8名で3〜4日必要だった作業が、従業員4名で2日程度で完了するようになりました。
また、導入前には無料体験を利用されました。1ヶ月分の学習データで予測した結果、80%ほどの高い精度が出たことで正式導入に至ったとのことです。
下記の記事では製造業でAIを活用した事例を紹介しています。どのようにAIを活用できるのか参考になるので、ぜひご覧ください。
予知保全のためのAI導入の流れ
ここからは具体的に予知保全のためにAIを導入する流れを紹介します。大まかな流れは下記の通りです。
- 【ステップ1】課題の把握・設計
- 【ステップ2】検証(PoC)
- 【ステップ3】実装・運用
特にステップ2をしっかり行えるかどうかで、期待した成果が得られるかが変わります。それぞれ解説するのでぜひご確認ください。
【ステップ1】課題の把握・設計
まず現状の課題を把握し、課題に対してAIでどのような改善をするのかを決定します。課題が明確になっていないと、導入するAIや学習データ、IoT機器(センサー)が決められません。AIを導入することで、どのような成果を得たいか目標を立てましょう。
課題や目的が決まったら設計工程に進みます。課題解決に対して、以下をそれぞれ整理していきましょう。
- どのようなAI・IoT機器(センサー)が必要か
- どのようなデータが必要か
- 実務でAIの予知結果をどのように活用するか
- 業務プロセスをどう変更するか
最後に、どのような体制・期間・費用で検証をはじめるかを決めて検証に進みます。
社内にAIの専門知識を有する人材がいない場合は、自社でAI開発を進めることは困難です。専門家に相談することもご検討ください。
【ステップ2】検証(PoC)
検証工程では、AIモデルを構築し、AIの精度が実務に適用できる精度になっているかを確認します。
一般的なAIモデルの構築は、下記の流れです。
- データ準備
- AIモデル構築
- モデル精度検証
- モデル最適化
検証はひとつの設備や機器など、限られた範囲で小さく行います。その理由は、広い範囲ではじめると期間や費用が大きくなり、PDCAが回しにくくなるからです。
検証結果が出たら、結果を踏まえて実務で活用できるか検証します。適用できる精度だと判断した場合は、コストを計算し、実務やシステムに組み込むための実装計画を策定します。
検証の結果、精度が不足していたり想定の用途に適さなかったりといった場合は、設計に戻ってやり直し改善することが必要です。
【ステップ3】実装・運用
実装工程では、現場へAI導入の必要性や活用方法を丁寧に説明します。効果的に活用するためにも、実際に運用する現場従業員の理解は必須です。意思疎通が図れたら現場担当者とともに具体的な業務プロセスへ落とし込み、運用を開始します。
運用開始後は、AIが問題なく判定しているかを定期的に評価することが必要です。精度低下や外部環境の変化があった場合は、AIモデルの再学習を実施し、精度向上を図ります。
運用が安定したら、AI範囲の拡大・システム連携範囲の拡大を目指していきましょう。
AIを活用した予知保全を導入する際のポイント2つ
AIを活用した予知保全を導入する際には、下記の2つを意識するのがポイントです。
- 【ポイント1】分析・改善を繰り返す
- 【ポイント2】限定した範囲からはじめる
ポイント1は精度の改善と維持、ポイント2は導入の成功にかかわるため、ぜひご確認ください。
【ポイント1】分析・改善を繰り返す
AIを活用した予知保全を安定運用するには、分析・改善の継続が必要です。
継続的に新しいデータを投入し、分析・改善を繰り返すことでAIの精度が増していきます。分析・改善をせずに放置してしまうと、精度低下を招き、導入コストや運用に費やした手間を無駄にしてしまいかねません。
高精度な予知保全を続けていくために、分析・改善を繰り返しましょう。
また、現場担当者から、フィードバックをもらうことも重要です。必要に応じて機能を追加するなど、改善を続けることで実用性も高められます。
【ポイント2】限定した範囲からはじめる
AIを導入する際には、限定した範囲に絞ってはじめるのがおすすめです。工場全体など一気に広範囲でAIを導入すると、データの収集・分析・改善に手間や時間がかかり、効率的ではありません。
小さくスタートし、継続的にデータの収集・分析・改善を繰り返し、AIを育てていくことが導入のコツです。
まずひとつの設備からAIを活用した予知保全を導入し、精度や効果を向上させてから他の設備や生産ラインへと横展開していくと、効率良くAIの活用範囲を広げられます。
まとめ
AIを活用した予知保全について、メリット・デメリットや具体的な事例、導入の流れなどを紹介しました。
予知保全は製造業で注目されているAI活用法のひとつです。予知保全にAIを活用すれば、「故障・不具合の発見精度が安定する」「ダウンタイム(稼働停止時間)を抑えられる」「人材不足への対応・人件費削減に役立つ」などのメリットを得られます。
導入コストがかかったり導入初期の精度が完璧ではなかったりというデメリットもありますが、どちらも長期的に見ると解決できるものです。ぜひAIを活用した予知保全の導入を前向きにご検討ください。
AIを活用した予知保全を導入する場合は、AI予測分析ツール「Prediction One」がおすすめです。高度なITスキルがなくても、予知保全を実現できるPrediction Oneは、機器の故障予測以外にもさまざまなシーンで活用できます。
Prediction Oneで実現可能な不良品の検知や出荷数予測などを資料にまとめているので、ぜひ下記から無料ダウンロードしてください。
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