AI/ML活用、進んできたけれど、実はまだまだ?!
まずは、AI/MLの活用状況から。「先進的な企業が実験的に活用しているというイメージが強かったけれど、すでにビジネス環境での実用化は進んでいる」とのこと。日本国内の動向については、IPAの「DX白書2021」から調査結果が紹介されました。2019年から2021年まで、AI/ML導入が着実に増えてきていることが分かります。
日本におけるAI/ML導入の推移
- IPA「DX白書2021」(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/qv6pgp0000000txx-att/000093706.pdf)より抜粋
2021年だと、「導入している」から「利用に向けて検討を進めている」まで入れると、4割近くがすでに導入に向けてなにかしら進めていて、確かにだいぶ増えているように感じます。一方で、アメリカと比べるとまだまだ差が大きく、米国は「現在実証実験(PoC)を行っている」企業までとしても、なんと6割にのぼります。さらに、「利用に向けて検討を進めている」まで入れると8割弱……と日本は大きく遅れているのが現状です。
日本と米国のAI/ML導入比較
- IPA「DX白書2021」(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/qv6pgp0000000txx-att/000093706.pdf)より抜粋
これらの結果からも、「多くの日本企業がAI/MLを恐る恐る試しているなかで、アメリカではすっかり実用化が進んでいると言えます」とのこと。AI/MLに対して「なんだかよく分からないけどすごそうよね」という段階はそろそろ抜けて、「本格的に仕事にどう使えるか考えよう」へと移っていかないと、ということでしょうか。
活用状況に差が出ている要因は「ステークホルダーの協調」
では、なぜ日米でここまでの差がつくのでしょうか?もちろんいろいろな要因があるのでしょうが、ひとつポイントとして挙げられていたのが、DX白書2021でも調査されている「ステークホルダーの協調」です。つまり、IT部門だけでなく、経営者や業務部門などAI/MLに関係するさまざまな立場の人がどこまで協調できているか、ということですね。日本では「十分にできている」「まあまあできている」あわせて4割弱なのに対して、アメリカでは9割近くにのぼります。
経営者・IT部門・業務部門の協調
- IPA「DX白書2021」(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/qv6pgp0000000txx-att/000093706.pdf)より抜粋
実際、AWSのグローバルチームで受ける相談でもこの傾向は顕著らしく、グローバル企業では最初の打ち合わせからIT部門だけでなく、活用したいビジネス部門やエグゼクティブも積極的に参加するのに対し、日本企業はIT部門・DXチームなどのみが参加するケースが多いのだとか。「日本ではAI/MLはまだ、“技術的な実現可能性を見極める技術開発プロジェクト”という意識が強いのではないでしょうか」とのことですが、確かにAI/MLを業務に取り入れるとしたらまずはそのスタンスで、となる気持ちは分からなくはない……というかすごく分かる。実際どれくらい使えるか分からないことにいきなり現場部門を巻き込むのはなかなかハードルが高いし、まずは情シスで試してよ、となる事情はよく分かります。
「ステークホルダーの協調」が必要な2つの理由
でもですよ、なぜステークホルダーと協調しなければならないのか、ということですよ。情シスでうまくやれればそれでよいのでは、むしろ現場の工数や手間をかけずに、うまく使えるAIを生み出せたらむしろハッピーでは?とも思うわけです。
ここでポイントになるのは2つ。まずは、「AI/ML活用では、解決すべきビジネス課題と目標を正しく設定することが重要」だということ。言われてみればそうなのですが、“技術的にできるかどうか”ではなくて、“ビジネス上のゴール(やりたいこと)”を考慮しなければなりません。しかし、情シスの技術的な観点だけでは、ビジネス部門が解決したい課題を理解できているかどうかは分かりません。「こんなデータがあるから、こんなAIモデルを実現できた!」となっても、ビジネスの現場では全然求められていない、ということも十分あるワケです。つまり、ビジネス部門の課題は、ビジネス部門側で考えるべきで、それを情シスと共有して目標を設定するのが正しいプロセス、となるのだそう。理屈としては、納得です。
もうひとつのポイントとしては、「AI/MLは完成したモデルを、実際の業務プロセスにのせてはじめて価値が生まれる」ことです。AI/MLを活用すると、業務プロセスも変わってくる、どんなプロセスになるかを現場と共有しなければ、現場で使いにくい→使われないものになりかねない、ということですね。さらに、現場で実際に活用がスタートしてからも、ビジネス目線で目標が達成できているかを継続的にチェックし、必要に応じた調整をし続けることになるのもAI/MLならでは。そのためにも、最初の段階から現場部門、経営層が関わって、実際に業務で使うイメージや目指すべきゴールを共有しながら進めないと、なかなか実用化までいかないですよ、ということなんだと理解しました。
ユースケースで見る、実際のトコロ
具体的なユースケースを用いた解説もありました。
まずは「需要予測」。製造業における生産計画の策定や、小売業における調達・在庫管理の最適化など、AI/ML活用でよく聞く領域のひとつです。じゃあ、AI/MLで需要予測をやろう!となると、現場からは「精度が高いモデルを作ってほしい」という要望が来る。うん、ありがちっぽいというか、私もきっと同じことを言いそうです。ですが、ここで単純に「精度」とするのではなくて、“ビジネス上の目標設定”と“どんなプロセスで活用するか”まできちんとブレイクダウンして確認することが重要だと。
需要予測と言ったとしても、「在庫切れによる機会損失を避けたい」のか「生産コスト・在庫コストを削減したい」のか、目指すゴールによって、求められるモデルは変わってきます。確かに、在庫切れ回避のためなら少し多めに在庫を確保して、売り切れを回避できる状態が評価されますが、在庫コスト削減ならば売り切れを回避できても在庫が残る状況が望ましいとは言えません。
さらに、どのようなプロセスで使うかも事前に確認が必要で、たとえ「毎日正しい予測結果を出す」モデルを作っても、生産計画は週1で作成というフローだったら、無駄 オブ 無駄……。そんな残念な状況を避けるためにも、事前に現場とちゃんと確認しましょうね、というのはなかなか心に刺さります。
もうひとつのユースケースは「離脱予測」です。自社サービスを離脱(退会)しそうなユーザを抽出し、引き止め施策をおこないたい、というものです。これもAI/MLでうまいことできるのではという予感がする領域ですが、意外と簡単にはいかないのだそう。
そもそも、離脱しそうなユーザの引き止め施策と言っても、「毎週、離脱しそうなユーザにクーポンを発行」「単発で大きなキャンペーンを実施」など、施策の種類はさまざまで、その内容によって目的も異なります。前者のような継続的な施策であればAI/MLが有効ですが、後者のような単発キャンペーンではそうとも限らない、とのこと。ついでに、データがそろえばかなり高精度な判定はできるものの、「なにをどうやっても結局離脱する人は一定数いる」と……。なので、そういった対象も含まれるリストに対して施策を打つのが効果的かどうかは考える必要があり、「効果がないユーザ」を前処理で除くなどの工夫も必要になる、ということです。
それは確かにそうなのですが、AI/ML活用の話をしているのに、だんだん夢のない話になってきたような……。ただ、そこがまさに“実用化”のキーになるところで、AI/MLも「導入さえすればうまくいく!」銀の弾丸では決してなく、こういったハードルをひとつずつ超えていってこそ、ちゃんと使えるものになる、ということなんだろうと感じました。
「コミュニケーションが大事」なのは分かるけれど……
最後に、AI/MLプロジェクトの失敗要因として、セッション中に何度も繰り返していた「ビジネスプロセスの理解不足」、モデルがマッチしなかっただけなのに、使えないと評価されてしまう「MLモデルの誤りによる経済的インパクトの過小評価」、そして“モデルの精度が◎%改善”がそのまま“売上◎%UP”になると誤解されてしまう「MLの評価目標とビジネス目標の関係性の誤解」の3つを挙げてセッションが締めくくられました。これらはどれもコミュニケーションで回避できるはず。つまり、AI/MLプロジェクトは現場や経営層も巻き込んで進めましょう……という、ある種当たり前のような結論です。
だがしかし!その当たり前が難しいのも現実です!
ということで、まずは手軽に試して、実際にモノも作りながら、「本当に業務で使えるかどうか?」を、現場に見てもらうのもひとつの手。ソニービズネットワークスでは、AI/ML導入支援サービスを提供しており、AWSサービスの環境構築などを支援するほか、ソニー独自のAIサービス「Prediction One」も提供。ノーコードで簡単に使えるツールで、とにかくAI/ML活用の最初のハードルを低くすることを目指しております。AI/ML活用はそろそろ避けては通れないものになってきた気がしますし、「うまくいかないんでしょー」と遠巻きにしていてもなにもはじまりません。とりあえずこういったサポートやツールを使って試してみるのもアリなのではないでしょうか?以上、シイノキでした!